調剤薬局M&Aのトレンド2011

過当競争が進む調剤薬局業界

全国の薬局数は約5万8000店。コンビニエンスストアよりも数が多くなっています。
医薬分業の進展で右肩上がりの成長を続け、市場規模は7兆円超となっていますが分業率は70%超に達しており、出店余地は限られてきています。
そのため大手から中堅・中小まで各社が出店戦略としてM&Aを活用しています。

調剤薬局業界の最大手のアインホールでィングス(東証1部)の売上高は約2600億円、マーケットシェアはおおよそ3%程度です。日本調剤、クラフト、クオール、総合メディカル上位5社の売上高を合計しても10%前半であり、大半の調剤薬局は1店舗から数店舗規模の小規模な調剤薬局(中小企業)という状況です。創業社長が60代に差し掛かり、事業承継問題も顕在化してくるため、さらに大手チェーン、中小・中堅チェーン薬局に統合、集約されていくものと考えられます。

流通業界から見ると、価格競争もなく、まだまだ恵まれた環境にあるといえる調剤薬局業界ですが、昨今では儲けすぎ批判(薬局バッシング)にもさらされています。(処方元の先生次第ですが、他業種から見ると確かに安定しており、儲かっています。)

国の歳出の中でも、毎年1兆円ずつ増えていく社会保障費(年金、医療費)は見直さざるを得ません。国の借金も1000兆円を超え、国家財政はすでに危機的状況を迎えていますので、将来のため持続可能な社会保障制度の構築が急務となっています。 さらに団塊の世代が2025年前後に一斉に後期高齢者となるいわゆる「2025年問題」が社会保障・財政問題を更に深刻化することが確実となっています。それに向けて医療・介護の徹底した効率化(報酬の適正化)は不可避といえます。
したがって、2018年、2020年と今後も更に踏み込んだ医療費抑制政策がとられていくものと考えられ、これまでのような恵まれた環境は維持されるとは思えません。

大手チェーンは資金力もあり、人材の確保も出来ます。規模を拡大して成長を続け、システム投資を行い、店舗運営の効率化を図るとともに仕入れの際に医薬品卸への交渉力(バイイングパワー)を増すことでなんとか収益を確保していくでしょうが、果たして中小調剤薬局に打つ手はあるのでしょうか?

温故知新。90年代に学ぶ薬局のM&A術とは。

調剤薬局の出店状況はあきらかに過当競争になっています。街を歩いていても「処方せん受付」の看板がよく目に飛び込んできます。大病院の門前には調剤薬局がひしめいています。また、従来の門前薬局ではない面対応の駅ナカ、駅チカ店舗や商店街立地、コンビニ併設型といったタイプに加えて医療モール型薬局の出店も進んでいます。
ドラッグストア各社も調剤部門の強化に乗り出し、調剤併設店、調剤専門店の出店を加速しています。このような過当競争にもかかわらず、買い手が非常に多いという点においては、調剤薬局業界の現状は1990年代の食品スーパー業界と非常に似ていると感じます。

私は1998年から中小企業のM&A仲介の仕事をしていますが、最初に携わったのが食品スーパーの業界でした。首都圏、関東エリアを中心に数店舗を展開している中小スーパー、10数店舗の中堅スーパー、さらに数十店舗以上展開している上場企業など食品スーパーを中心に定期的に足を運んでは、M&Aの情報を提供し、業界動向や経営の悩みを聞かせて頂き、時にM&Aのニーズを掘り起こし、売り手と買い手の経営者同士をお引き合わせし、M&Aを推進していくという仕事をしていました。

当時を振り返ると10数店舗の中堅チェーン会社はもちろん2,3店舗の会社であっても、出店戦略の一環として同業他社(既存店)を積極的にM&A(買いたい)したいというニーズが強い時代でした。
皆、出店したい、買いたいという社長ばかり。客観的に見れば、明らかにオーバーストアで競争は激化し、年齢的にもそろそろ引退されたほうが良いのでは・・・と思う社長でも、なかなか売却の決断は下せず、後継者の問題も先延ばしにするだけで結果的にどんどん状況を悪化させていました。

90年代は現在ほどM&Aが社会に認知されておらず、業績の良いうちに会社を売却しよう、ハッピ-リタイアメントしようという先見の明を持つ社長はごくごく稀でした。そのためM&Aといえば財務状況が悪く、資金繰りが厳しいという救済型M&Aの相談が多かったのですが、非常に好立地で儲かっている店舗については1店舗でも1億円を超えるのれん代がついて売買されていました。

それから10数年の年月が経った現在、生き残っている中小スーパーは、ざっと企業数にして当時の半分程度です。しかも残っている中小スーパーは決して競争を勝ち抜いた、という感じではありません。長期化するデフレ下で安い価格に慣れた消費者を相手に苦労しながら、同業だけでなく異業種のコンビニエンスストア、ドラッグストアとの競争、大手スーパーまでもがディスカウント業態を積極的に展開するなど、壮絶な価格競争を繰り広げており、その中で疲弊し、厳しさにじっと耐えながら、なんとか生きながらえているという感じなのです。

そういった変遷を経て、現在では売買される際の食品スーパーの店舗の値段も、のれん代はほとんど付かず、タダ同然ということも珍しくなくなってきました。普通のことをしていては業態として儲からなくなってしまったということに尽きると思うのですが、のれん代はゼロといった、当時では考えられない現象が実際に起きています。

事業を取り巻く環境は時代とともにどんどん変化していくのです。

M&Aのベストなタイミングとは?

話を調剤薬局に戻しますが、分業率は約70%超となり、徐々に頭打ちになってきています。
大手チェーンの中にも出店の7割超がM&Aという会社も出てきています。
新規出店に伴うリスクはかかりつけ薬局が定着してくると更に大きくなると考えられますから、数字が見えていて患者のついている既存薬局をM&Aで譲り受けたいというニーズは更に増えてくると思います。
ただし、M&Aの対象となる薬局のハードルは明らかに上がってきています。大手チェーンは特にその傾向が顕著ですが、今後の報酬改定や消費税アップ等の収益の下振れに耐え得るであろう規模以上の薬局しか買わないというスタンスになってきています。

一方、既存店の処方箋枚数、技術料は徐々に減少してきている薬局が多くなっています。
好条件で当たり前のように薬局の売買がなされている現在のような状態はずっと長く続くことはありません。将来は譲渡すること自体が難しくなるような時代になってしまうかもしれません。

M&Aを決断するタイミングというのは難しいものです。

創業者はリスクを背負って独立し、必死に努力し、一生懸命頑張ってこられたわけです。できるだけ高く評価をして欲しい、そう思われるのが当然です。ならば、M&Aで売却するタイミングは、間違いなく今がまさに最高のタイミングであると私は断言します。百歩譲ってもあと数年が良い条件で譲渡できるチャンスだと確信しています。調剤薬局バブルと言っても過言ではない超売り手市場が未来永却続くことはないのです。

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